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中小企業のための労務管理入門
このページでは、学習院大学経済学部の脇坂明教授の講義を取り上げていきます。テーマは「多様な働き方の展開と課題」。
以下講義内容をピックアップしていきます。
「多様な働き方」とは、一般的な正社員の働き方とは異なる働き方のこと。
一般的な正社員の働き方はというと、「平日週5日、1日8時間、プラス残業」ということになる。そして、それとは異なる働き方が「多様な働き方」となる。
例えば、「時間」でみると、残業のない社員、短時間勤務の社員など。
「場所」でみると、在宅勤務、サテライト勤務など。
「拘束度」でみると、転勤のない地域限定正社員や、残業免除正社員など。
このような働き方が「多様な働き方」となる。この言葉は、労働者や労働者の家族側の視点から見た言葉となる。ワークライフバランスの実現にも役立つことから、働く人の満足感の向上につながる。
一方で、「多様な働かせ方」という言葉がある。これは、企業や、経営者側の視点から見た言葉で、労働者側の視点から見た「多様な働き方」とは区別される言葉だ。
企業をとりまく環境が急激に変化してきた。たとえば、「グローバル化・24時間業務」「スピード経済化」「サービス経済化」などだ。それが要因となって、多様な働き方をする労働者を活用せざるを得なくなったという。
また、労働者の多様性が増すと競争力が増大するとも言われるようになった。限られた制約の中でも、様々な能力、人生経験、知恵をもった労働者を雇い、活用することになるからだ。しかし、その効果は完全には証明されていない。
さらに、多様な働き方をする人達を雇用することは、限定された働き方をする人達を組み合わせていくのだから、経営者側としても、割り振りなどがそれだけ複雑になってくる。
労働者側の供給(働き方)と、企業側の需要(働かせ方)がうまく折り合うかどうかが、今後の普及において重要な鍵となる。
以上がミクロな話。
次はマクロな話。
2014年の労働力需給推計というのがある。これが現在の最新データだ。2012年の労働力人口は、6555万人だった。今後、経済成長が進まず、労働参加が進まないと、2020年には6190万人、2030年には5683万人と、1000万人近く労働力人口は減ってしまうと推計されている。
したがって、外国人労働者をさらに1000万人近く活用しないと、現状は維持できなくなってしまう。
しかし、今後、経済成長が進み、労働参加が進むとすれば、2020年には6495万人、2030年には6285万人という推計だ。変動は少ないといえ、外国人労働者を多く活用しなくても済む。
ただし、「今後、経済成長が進み、労働参加が進む」ケースというのは、かなり厳しい前提をクリアした場合となり、実現は容易ではない。
今後、多様な働き方をする労働者を活用していかないと、労働力人口を保てなくなってしまう。それが、今、多様な働き方が注目されている背景である。
5年に1回行われる「就業構造基本調査」というものがある。
2012年に行われた調査が、現在の最新データになる。
サンプル数が多く、信頼できるデータだ。調査の結果、日本の有業者数は6442万人、役員を除く雇用労働者数は5354万人。
そのうち、正規雇用数は、3311万人。雇用労働者を100とすると、正規雇用は61.8%だ。
日本の高度成長期、8割の労働者が正社員だったといわれている。
その時代から比較すると、正社員は約2割減ったことになる。
言い換えると、正社員以外の非正規雇用が増えたことになる。「非正規」と一言で言っても、パート、アルバイト、契約社員、派遣社員、嘱託など、様々に分類することができるので、一つひとつ丁寧に見ていく必要はある。ただ、ここで正社員が減った要因として言えることは、パートの増加が挙げられる。
企業側(需要側)としては、安いコストで雇いたい、また、業務の変化に対応していきたい、という思いから、パートへの需要がある。
一方、労働者側(供給側)としては、この時間だけ働きたい、という時間的自由度の高い労働への要望がある。
また、正社員として働ける会社がないから、パート就労をしているという労働者も増えつつある。
さらに、実態は長時間勤務をしている「契約社員」「アルバイト」などもいて、実情は様々だ。
将来的には、正社員と、多様な働き方の間で、柔軟に行き来できる仕組みの構築が求められている。
たとえば、女性であれば、子育て期は短時間勤務、その後フルタイムの正社員に転換。
高齢者であれば、引退へのソフトランディングとして、短時間、短日数勤務。
このような自由度の高い仕組みが必要だ。
そして、多様な働き方を活用する上で、今後は、「短時間正社員」をより広く導入していくべきだ。
「短時間正社員」は、時間が短い、という以外、正社員の処遇と均等になっている。
「短時間正社員」を導入することで、優秀な人材を獲得できたり、従業員の定着率、モチベーションが向上したり、長時間労働が改善したりと、多くのメリットがある。
ただし、職場の同僚に仕事の負担がかかったり、仕事の分担が複雑になったりという課題もある。
したがって、「短時間正社員」の制度を普及させるためには、仕事の割り振りや適切な評価ができる管理職の存在が重要な鍵となる。
【講義を聴いて】
主張としては、
①正社員と、多様な働き方の間で、柔軟に行き来できる仕組みの構築が必要だ。
②短時間正社員を活用しよう。
ということなのだと思います。これが「一億総活躍社会」の実現にもつながるのでしょうね。
経営者としては、長時間働く人を扱った方が簡単で、短時間勤務の方を細かく割り振っていくのは、大変なことです。
しかし、これからの日本では、それは避けて通れない、ということを広い視点から学べたと思います。
また、厚生労働省のキャリアアップ助成金正社員化コースは、多様な正社員に転換することが要件になっています。http://www.ics-sr.jp/892306542
「短時間正社員」に限らず、多様な正社員は、まだまだ普及されているとはいえません。それを国全体に波及させるための手段として、助成金が使われているのですね。
また、東京労働大学で講義をされている教授陣の研究内容は、多くが現在の労働政策に反映されているのだと思うと、とても興味深く聞くことができます。
成立した結果としてしか分からない法律や制度を、立体的に理解するのにもこの講義が役立っているような気がします。その意味でも、とても有意義な時間だったと思います。(岩﨑)