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パート・アルバイト社員の基幹化と均衡待遇

中小企業のための労務管理入門

パート・アルバイト社員の基幹化と均衡待遇

このページでは、國學院大學経済学部の本田一成教授の講義を取り上げていきます。テーマは「パート・アルバイト社員の基幹化と均衡待遇」。

以下講義内容をピックアップしていきます。

パートタイマーの基幹化とは?

パート問題のキーワードは「基幹化(基幹労働者化)」。この言葉を理解することによって、パートに関する色々な問題の説明がつく。

総務省の「平成24年就業構造基本調査」によると、パートタイマーの数は、1395万人。平成19年の調査では、1294万人だったので、増加傾向にある。

産業によって違いはあるものの、労働者のうち、パートタイマーは全体の4分の1を占めている。

したがって、日本の労働者の問題を考える上で、パートタイマーの問題は必要不可欠なテーマだ。

パートタイマーが企業内で活用され、マニュアルなどを導入することでパートタイマーの戦力化がなされてきたのは1990年代。2000年代になると、「基幹化」がなされてきた。

つまり、以前は正社員のみが行ってきた、企業での基幹業務を、パートタイマーが担うようになってきた。

ただし、たとえいくら業務が「基幹化」されても、処遇が正社員並に改善されるわけでもなく、パートタイマーとしての処遇のままだ。

一口に「基幹化」と言っても、下記のように2種類ある。

①量的な基幹化

②質的な基幹化

まず、「①量的な基幹化」について。
例えば、あるファミリーレストランで、全労働者の1週間の総労働時間を調査した結果、パートタイマーの労働時間が90%以上をしめており、正社員の労働時間は、全体のわずか8.5%だった。
つまり、この場合、パートタイマーの存在抜きに、このファミリーレストランの営業は成立しない。これが、「①量的な基幹化」だ。

つぎに、「②質的な基幹化」について。
例えば、営業成績のよい社員に順位付けを行った結果、上位10位以内にパートタイマーが8割入ってしまうような会社があった。また、以前なら正社員が行っていたような、責任の重い業務や、高度な技術を必要とされるような業務を、パートタイマーが行う場合が増えてきている。これが「②質的な基幹化」だ。

パートタイマーの中でも、最大の集団は主婦パートだ。約800万人いる。以前は「家計の補助」という目的だったが、今は「生活の維持」という目的に変化しており、労働者の主婦側から見ても、パートタイマーとしての労働は、重要度が増している。

では、なぜこれほど主婦パートの基幹化が進んだのか。その背景を分析していく。

主婦パートを雇用する企業側の理由としては、「人件費の節約になるから」としている場合が多い。

例えば、パートで短時間勤務だと、企業側としても社会保険料の負担が少なくて済む。また、主婦パートは、以前に正社員を経験した人が多く、新卒のようにゼロから研修をしなくて済み、企業側の負担も少ない。

しかし、「人件費の節約」という単純な問題だけなのかというと、実はもっと根深い背景がある。

①男性正社員は、一家の大黒柱で、家族を養うため、多くの給与額を与えなくてはいけないが、主婦パートは、副収入だから、給与額は低くてもかまわない、という考え方がある。

→企業は、人件費の節約になるので、この考え方で主婦パートの給与額を低く維持しようとし、その影響で他のパートタイマーも同じ水準になってしまう。

→パートという雇用形態は、労働者が自分から希望して選んだのだから、給与額が低くても仕方ないでしょ、という企業側の考え方もある。

→シングルマザーなどは副収入ではないにもかかわらず、パートは皆同じ待遇で扱われ、給与額を低く抑えられてしまう。

②男女役割分担意識=男性は外で稼ぎ、女性は家の中で家事をするという、日本人の中の根深い意識がある。

→①の考え方の補強になってしまっている。

③日本の社会保険制度が、上記①②をモデルにした世帯が多いことを想定してつくられている。

→年収130万円の壁を越えなければ、主婦自身は夫の扶養家族として、社会保険料を払わなくても夫の社会保険に入ったままでいられる。そのため、扶養家族から外れないよう、一定の収入ラインを超えないように仕事をセーブしてしまう。→いつまでも低い収入のまま。

→仕事の基幹化が進み、大変になっても、給与額を下げたままでよいという仕組みが残ってしまった。

→他の非正規雇用労働者にも影響が及ぶ。

このような、主婦パートの基幹化からはなかなか抜け出せないような仕組みになっている。

しかし、このままでは企業としても多くのリスクを負うことになる。

給与額が低いなど、処遇が改善されないことによって、下記の問題が引き起こされることになる。

・定着率→すぐやめる。→結局、企業側に採用コストがかかる。
・生産性→モチベーションが上がらないので、生産性も上がらない。
・凝集性→企業のために皆で結束して目標に向かっていこう、という気持ちにならない。
・情報収集→良い情報、ノウハウを開示しなくなる。
・人材開発能力→やる気がないと、勉強や成長への意欲も減退する。
・正社員への影響→モチベーションの低いパートタイマーを、厳しい管理でカバーしようとしたり、正社員にも負担がかかる。

上記のようなリスクを回避するためには、パートタイマーの処遇が改善されるよう、企業に促す必要がある。

そこで、パートタイマーの雇用管理の法律や、処遇制度の整備がなされてきた。

パートタイム労働法は、1993年に制定され、2007年、2014年と改正されてきた。

その結果、(1) 職務内容が正社員と同一、(2) 人材活用の仕組み(人事異動等の有無や範囲)が正社員と同一の場合は、パートタイム労働者も正社員と差別的取扱いが禁止された。

また、賃金の決定方法は、正社員との均衡(バランス)を考慮しなければならない。

だが、これで十分とは言えない。

今後、短時間正社員とどのように併存していけばよいか、調整が難しいという点、また、社会保険制度の見直しが必要な点など、多くの課題が残されている。

基幹化の生じた複雑な背景

【講義を聴いて】

学者の方の講義は、長年研究されているだけあって、細かく深いですね。また、「基幹化」の話のとき、俺の話を「聞かんか」!なんて親父ギャグもあり、思わず笑ってしまいました。切れ味の良い、楽しい講義でした。

日本人の伝統的な考え方、それに基づいて構築された社会保険制度など、色々な要素が絡んでいる複雑な背景があったということがよく分かりました。

ただし、労働問題というのは、会社経営をする上での一部の問題にしかすぎません。経営者からすれば、企業全体として、利益が残る、従業員に給与が渡せる、これらをクリアしながら、労働関係の法令を守りつつ、雇用者の形態別の職務、これからの人材育成、処遇なども考えなければなりません。

社労士も、自分の専門分野の法律だけを語っても、経営者としてはそれだけですべてを判断することはできません。現実はもっと複雑です。日々、経験と勉強を積み重ねていきたいですね。(岩﨑)